長引く慢性痛と脳や心との関係については、近年、メディアで取り上げられることも多くなり、多くの人が知るところとなっています。
またそれに伴い、認知行動療法なるものがあり、それが慢性痛改善の方法の一つとして注目される場面も多くなっています。
著者である谷川浩隆氏は腰痛への心理学的アプローチ、すなわち認知行動療法を「心療整形外科」として提唱、実践してきた開業医です。
腰痛をはじめとする痛みに悩む方々に対して、その痛みに向きあうための「心(気持ち)の理想的なあり方」を、谷川氏がその経験から書いています。
ここからは本書の内容について、一部を紹介したいと思います。
慢性腰痛≠心だけが原因
「腰痛の原因の85%は原因不明」ということを聞いたことはありますか?
これは2012年に日本整形外科学会が「腰痛診療ガイドライン」で発表した内容をもとに言われていることです。
これとともに、先に述べた慢性痛と脳の関係から、「慢性腰痛=心だけの問題」と思っている一般の方も増えています。
谷川氏はこれに対して、整形外科医としての立場から
心だけで腰だけが痛くなることはない。腰にも何らかの解明できない原因がある。
としています。
その上で、からだの不調がこころに影響してこころの不調を引き起こし、それがからだに影響を与えさらにからだを不調にするという、ループ状態にあることを指摘しています。
痛みには自律神経が関与
このこころの不調には自律神経が関与しており、患者さんの「破局的思考」がこれに悪影響を与えると、谷川氏は指摘しています。
この「破局的思考」を育てるのが、過去へのこだわり・未来への不安であり、これを防ぐ方法として、谷川氏は呼吸法・ウォーキング・体操のやり方を紹介しています。
呼吸法・ウォーキング・体操のやり方の詳細は本を読んでいただきたいのですが、ポイントは「今」に集中しておこなうこととなっています。
これは「マインドフルネス」のエッセンスを取り入れたものとなっており、呼吸法については「マインドフルネス呼吸法」、ウォーキング・体操については「ムーブメント瞑想法」に近い方法となっています。
上手に痛みとつき合うための気持ちのあり方
僕が本書を読むに至ったきっかけは、新聞広告で「ウォーキングを始めたら、なぜ痛みが消えたのか」というキャッチフレーズで本書が紹介されていたためです。
実は、腰痛解消のためのウォーキング方とその理由が書かれているハウツー本だと思っていました。
先ほど書いたように、ウォーキング法についても書いてはありますが、内容はほんのわずかです。
あくまで、この本のメインテーマは「痛みと上手につきあっていくための心(気持ち)の持ち方・あり方」。
それが、様々な事例を通して終始紹介されています。
- 慢性の痛みには多かれ少なかれ、症状に対する患者の「気持ち」「心の持ちよう」が関与しており、上手に痛みと向き合うかどうかがその後を左右する。
- 大切なことは「決めつけない」「焦らない」「あきらめない」ということであり、「現状を受け入れること」が大事
ということが全体的なテーマとなっています。
本書を読むこと自体が認知行動療法
本書は、全体を通じて、慢性の痛みに悩む方が陥りやすい「思考のかたより」に、「気づき」を与える内容となっています。
その意味では、本書読むことで、認知行動療法の一端が体験できると言えるのではないでしょうか。
認知行動療法はその専門性から受けられる場所も限られており、受診できる環境にいる方は、現状まだ多くありません。
そのため、慢性痛に悩む方、一人でも多く人に読んでいただきたい一冊だと感じました。